夏の雲雀は かろやかに

                          *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
                           789女子高生設定をお借りしました。
 


       




野山にあふれる緑がいつの間にかその色を深いものとし、
樹下にたたえる陰の濃さもまた深まったは、頭上の陽射しが強まったから。
弾けるような陽光に引けをとらない、
その青を油を吸ったような濃密さで深めた夏空に、
どこからか蝉の鳴く声がこだまして。
地上はすっかりと夏の趣きをたたえており。
あれほどの大雨に叩かれ、
今年は夏も寒いんじゃないかと案じられたのはいつの頃合いのことなやら。
杞憂どころか、幻ででもあったかのように、
七月半ばの“海の日”を境に、
あっと言う間に…照りつける陽射しと うだるような暑さの“盛夏”へ転じてしまい。
日射病なんて甘いもんじゃあない、
体力がないと多臓器不全を引き起こし、
死に至る恐れもあるという“熱中症”が人々を襲うほどの、
途轍もない“猛暑”が続く七月と相なって。

 「だっていうのにまあ、何とも涼しげで麗しいこったねぇ。」

ただただこの暑さにげんなりしている大人に比べりゃ、
お元気印の小学生に近いからか。
若さみなぎる十代は、
学校が休みなのはどうしてかを置いとく勢いで、
陽射しも蒸し暑さも何のその、
海だのプールだの、
バーゲンやイベント目当てに街へだの、
自主的に繰り出すお元気さだからということか。
敷地に満ちた瑞々しい緑が、まだ若々しい新緑だったころ、
その純白を冴え冴えと映えさせた、古風な長衣(ローヴ)。
再び その身へまとったお嬢様がたは、
頬や口許に浮かべる優雅な微笑も涼やかで、
夏の陽の弾けように負けじと、目映く光り輝いて見えるばかり。

 「躾けというかお育ちというかが出るんだろうね。
  間違っても“あ"〜・あ"つ"い"〜〜”なんて、
  濁点つきの低い声で唸ったりしねぇし。」

スタッフたちが陰消しのレフ板やら白地の幕をセットして構えることで。
いづれが春蘭秋菊か、
単に見目麗しいというだけじゃあなく、
どこか外国の大使の娘さんででもあるものか、
明るい髪色に青い目や赤い目という、
高貴な令嬢たちの艶姿、ますますのこと麗しく盛り立てたのへとカメラを向けると。
フレームの中の構図に満足しつつ、
延長コード式のシャッタースイッチを何度か押して、

 「よっし、OKっ。」

にんまり笑ったのは、微妙に軽佻な雰囲気の男性で。
面差しやら体格、卒のなさそな立ち居振る舞いなど、
総合的に見て…まま十人並みよりかは多少ほど上の級だろか。
モデルとしてのご指名受けてやって来た、素人の女子高生相手にも、
若いギャル相手に鼻の下を延ばすというよな、判りやすい脱線こそしないが、

 「じゃあ、水分補給休憩ね。」

瑣事だからとアシスタント任せにしないで、
愛想を振るのを忘れぬマメさは、いっそ大したものかも知れぬ。

 「あ、それは言えてるよね。」
 「イマドキの出世頭は、まず空気読めなきゃダメらしいですよ?」
 「……それって実力と言えるのか?」
 「業界の種類にもよるんでしょうね。」

確かにまあ、手扇作って“暑い暑い”の連呼をするよなはしたなさこそ見せないが、
それは彼女らが生え抜きの“お嬢様たち”だから…というだけじゃあなく。
わめいたところで涼しくなる訳でなし、
却って空気が淀むだけだと判っているので口にしないだけ。
普通の女子校生と違い、微妙に達観している彼女らではあるが、

 「でもなあ。
  またこれを、しかも真夏に着ることになるとは思わなかった。」
 「そうよねぇ。」

襟ぐりがスクエアに、大きめに四角く刳り貫かれていて、
すんなりした首を出してるデザインが、一見涼しげに見えはするが。
シルエットの美しさ優先という素材のサテンは、
通気性や吸水性はあんまりよくなかったし。
それが足元まで長々あると来て、
内側には熱や汗の湿気が籠もる籠もる。
スイカや巨峰、桃や梨が出回る夏の盛りに、

 『今年のミス・メイクィーンたちと、敷地内の文化財を撮りたいのですよ。』

女学園が毎年発行しているカレンダー。
学園内の文化財やら、特長ある施設を、
瑞々しい花や緑とともに撮影したものを刷り、
領布希望のあった卒業生や、理事や支援者の皆様へ、
年末のご挨拶に添えて、毎年お配りしているのだけれど。
来年度のカレンダーを担当するというカメラマンは、
ずっとずっと担当してらした、初老のベテランさんじゃあなく。
その筋では高名なその人へ、数年ほど前まで師事していたという若い人。

 『てっきり サナエさんが請け負うと思っていましたのに。』

五月祭のスナップ写真を担当なさった女流カメラマンさんで、
しかもその上、七郎次の叔母でもあって。
メイクィーンたちも撮りたいなんて話だったので、
てっきりあの気さくな叔母様が撮ってくださると思い、
それならと引き受けた彼女らだったものが、

 『ようこそ、女神さんたち。』

気安いご挨拶をくれたのは、見知らぬ若手の男性だったから。
ありゃりゃあと顔を見合わせちゃったほど。

  ――そう。
    夏休みの真っ只中に、
    わざわざ呼び出された学校で。
    ダイエットサウナですかと言いたくなるほど、
    見た目を裏切ってハードな衣装を着せられて。
    女神の微笑みを最低12枚撮らにゃあならない羽目になってる、
    我らがお馴染みの三人娘だったりし。

  「表紙も入れたら 13枚ですよ。」
  「ええ〜? それは無し無し〜〜。」
  「恐らく表紙はないだろう。」

人物が入るなんてこと自体、異例なのだ、
そんなものが採用されるとは思えぬ…と、紅ばらさんが のたまえば。
え〜〜? じゃあ、
こうして撮られてること自体も無駄になるかも知れないんですか?と、
ひなげしさんが問うたのも無理はなかったし。

 「あるいは。」
 「うあ〜、さいて〜。」

何でそう冷静に応じられますかねと、付け足したものの、
久蔵の冷静さは、それこそ前世から持ち越して来たものの中、
最も顕著な個性で…、

 「…ではあったけど。」

はたと、何かに気づいた白百合さん。
すぐお隣りで同じようにパイプ椅子に腰掛けて休憩中の同級生さんを、
まじまじと見やってから………、

 「すいません、アイスノン用意していただけますかっ。」
 「久蔵殿、しっかりっ!」

白いお顔をのけぞらせ、力なくもぐらりと椅子から転げ落ちかかった痩躯。
はっしと素早く受け止めたのが平八といういつもの顔触れ。
但し、何ともややこしい状況下にある、
彼女ららしかったりするのであった。





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  *またまた何やらややこしい事態になってるようで。
   続きがちょみっと過ぎてすいません。
   すぐにも書きますのでご容赦を。


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